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女信長───おなごのぶなが─── 第三話

第三話です。今回ちょっと微妙なところで終わるかもです。

 うつけと呼ばれる姫の──覇王になろう者の父親は如何なる者か。
 そして、母親は・・・・・・
 なぜ我が子を疎むのか。

第三話 織田信秀 ──うつけの父上──


「帰蝶。今日は父上達に挨拶に行く。」

 婚礼から数日後、目が覚めてさほど経たずに信長はいった。
「今日・・・・・・義父上様──信秀様に御挨拶ですか?」

「ああ。昨日の夜、城に来いと言う連絡が来てな。しかし、言い忘れてしまっていた。すまない。」

「いいえ。構いませんが・・・・・・それに、義父上にもお会いしてみたいですし。──そう言えば、あちらのお城には義母上様もいらっしゃるのですか?」

 帰蝶の言葉に、信長の表情(かお)が固まる。
「・・・・・・ああ。母上も、信勝(おとうと)もだ。」

 
 朝食の後、信長と帰蝶は信秀の居城へと向かった。さほど遠くはなく、昼前には城についた。

 城につくと直ぐに広間へ通され、信秀と向き合う事となった。

 彼は開口一番、
「夫婦でうまくやっているのか?」
と聞いてきた。

 信長はそれにはい、と答える。
 信秀はそうか、とだけ答えたが、その声には喜びの感情が伺えた。
 信長はそのことに気付き、嬉しく思ったが、ふと、あることに気付く。

(「“夫婦”でうまくやっているか」・・・・・・?)

 わたしを男として育て、結婚させた。男として生きているわたしに、妻をめとらせた。
 これは政略結婚。家を守るために必要な事。

(けれど・・・・・・今まで父上はわたしに──俺に縁談など・・・・・・)

 それほど同盟が大事なものだというのも理由の一つであろう。
 だが、いま父は夫婦で、といった。帰蝶が女であれば、本当の夫婦にはなれない。

(父上は、“知っていた”のか?)

帰蝶が男だということを。
 ちら、と横にいる彼に目を向けると、彼も違和感を感じたらしい。

 恐る恐る、言葉を選び父に問う。

「父上。父上は、俺達が夫婦になれると、最初から知っていたのでは?」

 信長の問いに、信秀は頬を僅かに緩める。

「ああ。」

 父の肯定に信長は驚いた。隣にいる帰蝶も同じだった。

 それを察した信秀が説明のため、人払いをしようとしたその時。

「奥方様がおいでです。」
 家臣のその言葉とともに、部屋に一人の女性が入ってきた。その後ろには信長より小さい少年もいる。信秀の正室・土田御前と信長の弟・信勝である。

 彼女は信長を一瞥し、高飛車にこう言い放った。
「あらあら。常識知らずのうつけ殿も、お父上の前ではしっかりとしたふりをなさるのですね。」

 母から言われた嫌味に、信長が手を強く握り、表情を、織田家嫡男の姿勢を崩すまいとしているところを、帰蝶は横目で見守る事しかできなかった。

 母・土田御前と信勝が部屋に入ってきてから、信長は口を閉じてしまった。

 話の途中であったので、信秀もそれを気にしたのか、
「お前達は呼んでいない筈だが?」
 と言った。しかし、
「この家の嫁が来ているのです。私も会っておかねば。貴方と話しているときしか、信長は大人しくしませんから。」
 と返されてしまう。しかも信長が元服をすっぽかしかけた事への皮肉も込められている。

「お話はお二人だけでされているご様子。それならば、お濃殿は私と女同士、私の部屋で話してもよろしいですか?」
 自分に白羽の矢がたった帰蝶は、一瞬怯んだが直ぐに落ち着きを取り戻した。
 そして、
「よろしいでしょうか?義父上様、信長様。」
 と、伺う。
 信秀は、夫はそなたなのだから、と信長に答えをだすよう促す。信長を見ると、不安そうな顔をしていたが、大丈夫です、と目で合図をおくる。

(嫁いだ日にくらべたら、こんな不安くらい・・・・・・)

「では、いきましょう、お濃殿。」
 土田御前は帰蝶を連れ、部屋を後にした。
 信勝は残ったが、信秀の視線に圧され、部屋を辞した。

 二人きりになり、信秀が口を開く。
「話を続けるか、信長。気になっているんだろ?婚礼の事」

 一方、帰蝶は義母・土田御前の部屋に通されていたが、先程の事もあり、少し落ち着かない。
 それにお構い無しに、土田御前は話をしてくる。
「噂通り綺麗な姫君。あのうつけ殿にはもったいない・・・・・・」
 ずけずけと言われた内容には少々勘に触る事もあったが、何とか笑顔を作り聞いている。部屋にきてからずっとこうだ。しかも信長に対しての愚痴の様なものばかりで、耳を塞ぎたくなる程だ。

(それにしても・・・・・・)
 何故こんなに信長を疎むのだろうか。
(この御様子だと、私のことは勿論、信長さまの性別にも気付いてない。自分の息子を、嫡男を、何故──? )

 そんな疑問が顔にも出ていたのか、御前は帰蝶の心を見透かしたように言う。

「なぜ私があの子を疎むのか、わかるか?。」

 心中を読んだような物言いへの驚きというよりも、興味のほうが勝った。
「よくおわかりで」
 と思わず言ってしまい、あわてて詫びた。だが、御前は微笑み優し気な声で
「ほほ、よいのじゃ。」
 と言う。

「うつけだからというだけではない。私はのう・・・・・・あの子が、怖いのじゃ。」
「怖い・・・・・・ですか・・・・・・?」
「わかるであろう?──あの子の目。あれは私を好いておらぬ。」

 帰蝶はいけないと思いつつも、それはそうだろう、と心のなかで毒を吐いた。あなたは自分の子供を、家督が継げないという理由だけで要らないものだと言ったのだから。

 自分の兄とこの義母への嫌悪感は同じだ。皮肉にも兄は家督の継げにぬ妹には愛情があった。だが、真実を知っている帰蝶は兄には肉親の愛情はあれど、恐怖と嫌悪を感じて生きてきた。

(───きっと、信もそう感じて生きてきたのだろう。)

 そんな事を思いつつも話を聞いていると、そのうち彼女はとんでもないことを言い出した。
「お濃殿が信勝の嫁御であれば良かったのにのう。──そうじゃ。そうすればよいのじゃ。」

 そう言ったあと御前が傍にある箪笥からから懐剣を取りだして言った言葉はありえないものだった。
「どうじゃ?お濃殿。私と手を組み、信勝をこの家の跡取りにしようぞ。そうして、そなたは織田家当主の妻になるのじゃ。──信勝の、妻に。」

(……?!)

 つまり、信長を、お前の夫を殺せということだった。それよりも、この人は自分の子供を殺させようとしている。

(ありえない……!!)
刀を渡そうとしてきた手を振り払いたい衝動に駆られるが、ここで自分がそんなことをすれば、さらに信長への風当たりが悪くなる。

 取り合えず、まずは落ち着くよう心掛けた。落ち着けば自ずと良い答えは出てくる。
(でも、まぁ──少しくらいは、キツイこと言ってもいいかな。)

 流石にこんなことを全て許せるほど心が広い人間ではない。────自分は意外と腹黒いのかもしれない。

「お義母様」

 態度を一変させて向けられた笑顔に、土田御前は一瞬怯むも、引き受けてくれるのか、と問う。

 だが、帰蝶はそれを綺麗な笑顔で否定する。

「いいえ。お引き受け致しかねます。」

「なっ……!!うつけを、選ぶのか?!」
 それほどまでに、信長を愚物と捉えているのかこの母親は、という考えを一かけらも出さず帰蝶は続けた。

「ええ、私は信長様の妻ですから。────愛する夫を、殺すことなどできましょうか。」

 そう言った帰蝶の表情は、婚礼の日平手が感じたような、畏怖を抱かざるを得ない、信長によく似た迫力を持っていた。
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