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女信長─おなごのぶなが─ 第二話

第二話です。
今回は挿絵も書いてみました。背景雑すぎですが……
あとひどい書き方した人物が二名、オリジナルキャラが一人います。そのあたり大丈夫な方はどうぞ。

第二話 うつけの婚礼

あなたはわたしと、夫婦になってくれますか。




 一方、城では平手が濃姫に手をついて謝っていた。
「この度は大切なご婚礼にも関わらず、若様が・・・・・・申し訳もございませぬ。」
 だが濃姫は怒るどころか笑顔で顔を上げるよう促す。
「いいえ。私は信長さまの妻になるのですから。婚礼の遅れも云わば夫である信長様の決めたこと。私はそれに従うだけですわ。」
 笑顔でそう言い切った濃姫に、平手は安心しつつも畏怖の念を抱く。この姫は信長様に何か通じる物を持っている。そんな考えが頭をよぎった。
 そんな彼の気持ちを知ってか知らずかはわからぬが、濃姫はふと真面目な顔になる。
(まさか婚礼前にこうやらかすとは・・・・・・信長殿は、誠の大うつけか、それとも・・・・・・)
 そう考えながら、手の震えが悟られないように、自分を騙すようにまた笑顔に戻った。
(信長様、貴方は私を、受け入れてくれますか……?)

 信長が屋敷からすぐに戻ったため、婚礼は予定より少し遅れただけだった。
 婚礼の宴の途中、信長は自分に嫁いできた姫を横目で盗み見る。
(黒く長い髪、凛として引き締まった顔。噂には聞いていたが、美しい姫だ。少し、吉乃姐さんに、似ている、か?)
 こんなに綺麗な女性が女の自分に嫁いでしまった。この姫が自分のせいで夫婦としての幸せを得られないかもしれない、と考えると悲しく感じ、それを悟られないよう宴の席に視線を向けた。
  一方、濃姫もまた、信長とは違うときに視線をそちらに向けていた。
(細く整った鼻筋に、女と見違う綺麗な顔立ち。たまに見せる表情。この方は本当に、「うつけ」なのか・・・・・・?)
 何よりその瞳は、覇王の眼差し。
 双方、様々な事を考えているうちに、宴は終わり、寝る時間になってしまった。

  その後、風呂にも入り終えた信長は、寝所へと向かう。
 いよいよ、正体を明かすのだ。体が震える。どうにかしようと、近くの空き部屋へ入る。
 話相手が欲しくなり、信用のおける者の名を呼んだ。
 「香緋(コウヒ)。」と呼ぶと直ぐにどこからともなく現れた少女は、信長が最も信頼しているくノ一だ。
 有能な彼女は、主の聞きたいことを直ぐに察し、口を開いた。
「濃姫様も湯編みを終え、御寝所にいらっしゃいます。」
「そうか・・・・・・先程決意したばかりなのに、やはり、いざとなるとダメだな・・・・・・」
 悩みを抱えた主の心中を察し、香緋は僭越ながら・・・・・・と話を始める。
「濃姫様はお優しい方だと聞いております。話すだけ話してみては如何でしょう。少なくとも若様の事情を聞いて、私は若様を蔑む気持ちなど沸きませんでした。むしろ、尊敬しております。きっと、濃姫様にも若様の事を解って頂けます。 」
 香緋のその言葉で、強ばっていた表情(かお)が解れた。彼女への礼の言葉を言い、寝所へと向かう。

 その瞳に、迷いなど一片もなく。
 その瞳は、ただ前だけを見詰める「覇王の目」だと香緋は思った。
 (そんな瞳をしている貴女様だから、私は……)
 だが、浮かんだ言葉をすぐに打ち消す。
 自分が口にしてはいけない言葉。想うほどに、口からでそうだ。だから、想うことも。
 そうして自分の持ち場へと戻っていった。

 濃姫こと、帰蝶が寝所へと入ってからさほど時は経たず信長も同じく寝所へ入ってきた。
 帰蝶は形式通りに信長を出迎え、口を開いた。
「ふつつか者ではありますが、これからは夫婦として、どうぞ宜しくお願い致します。」
 それに対て、信長は「その事だが・・・・・・」と話を切りだそうとするが、それよりもまえに帰蝶が言葉を続ける。
「・・・・・・と言いたいところではございまするが。」
 再び言葉を切り、帰蝶は面を上げ、真っ直ぐに信長を見据えた。化粧を落とした顔も、凛々しく美しい。
「誠に申し訳ないないのですが、私は、男の貴方と夫婦になることは出来ませぬ。──私は、男でございますので。」

「・・・・・・・・・・・・は?」
 それしか声は出せず、頭が真っ白になった。それは本当の事なのかと、それすらも言葉にならなかった。
 そんな信長の驚きを察し、帰蝶は女の格好をしている理由を説明する。

 驚かれるのも無理ありませぬ。女として嫁いで来た矢先、夫になるはずであった貴方にこのようなことを言ったのですから。
 ですが私は心が女性という訳でも、女の格好をするのが趣味という訳ではありませぬ。・・・・・・私が女装をしているのには、理由が御座います。

 私は自分の命を守るため、父に女として育てられたのです。

 帰蝶のその言葉は、信長の心に響いた。思わず先を促し、聞き入ってしまう。帰蝶も丁寧に説明を続ける。

 私の兄・義龍は大変な野心家であり、斎藤家の家督を継ぐために、側室の子を含め男の兄弟を殺す事も躊躇わぬ男です。父上様が何とか止め、暗殺を未遂に納める事もあったのですが、当時僅か一歳の側室の産んだ男の子が兄上に殺される、という事件があったときに、丁度私が産まれたのです。
 実の息子が自分が産んだばかりの子を殺害するのを恐れた母は、その場に居合わせていた父や待女たちと共に、私を女として育てる事を決めたのです。
 そのお陰で、今日まで私は無事で生きれたのです。

 帰蝶が話し終え、再び視線を信長に向けると、信長はああ、そうかとだけ呟いた。
「私と、殆ど同じだな」
 意味が分からず眉根をよせた帰蝶に、信長もまた己の正体を明かした。
「俺は、貴方とは同じで正反対だ。俺は・・・・・・女だ。」
 今度は帰蝶が固まる番だった。
「どういう事ですか?」
 と聴き返すだけで精一杯である。
 それに対し、今度は信長が説明を始めた。

「・・・・・・私が母上と不仲なのは、有名な話であろう?その母上が、原因といえば原因だ。」

 俺の母上は、少し嫉妬心の強い方で、側室の子である義兄上が織田家の家督を継いでしまうのではないのかと焦っていた時に身籠ったのが俺だった。
 その時、精神的にも母上はおかしくなっていたのかも知れない。俺の乳母となる予定の侍女にこう言ったのだ。
「今わらわの腹にいる子が男で無かったら────織田家の嫡男となりえなかったら、この子はいらぬ。殺すか、捨てるかじゃ。」

「そんな……」
 帰蝶は息をのんだ。実の子を……?と思ったが、それは自分の兄も似たようなものではないか。
 それには構わず、信長は自嘲気味に笑い、話を進める。

 幸い、その侍女は父上が母上を見張るように言っていた者で、父上はそのことを聞き、俺が女であっても、俺を嫡男として育てるよう、言いつけた。
 それを知っているのは、父上と忍と、平手などの一部の信頼できる者のみ。
 そうして俺は織田家嫡男として、────自分の命を守るために、男として、生きてきた。

 話が終わり、しばし沈黙が続いた。
 二人とも、何を言えばいいのかわからなかった。
 ただ、相手を憐れむ気持ちなどは湧かなかった。それは、自分がその気持ちを────性別を偽ることのつらさを、孤独感を知っていたからであろう。そして、自分が相手に拒絶されるかもしれないという恐怖感があり、お互いがお互いの立場、ともに性別を偽り、己を守ってきた同士であったがためであろう。
 不思議と沸き上がった思いは同じであった。

     ──自分達は、似ている……?──

 それが正しいかどうかはわからない。ただ、二人は同じことを思った事は本当だ。

 自分など生まれてこなければよかった、と心が潰れそうになったこともあった。だから、この思いはただ相手に同情を、互いの傷を慰めあう事を求めているだけかもしれない。

 それでも、と言葉を紡ぐ。

「それならば。貴方が男で、俺が女ならば、夫婦(めおと)になれるな。」

 そういい、おもむろに帰蝶を抱き寄せた。
 こうしたのは同情を求めるためではないのかと確かめるために。
 ふと湧いた感情を知るために。鼓動が早くなった理由を知るために。
 抱き寄せられ、帰蝶は一瞬驚きはしたものの、やんわりとそれを拒んだ。
「それは、その思いは本当に夫婦になることを望んでいるのですか?……そうでないとしたら、私は夫婦になることは拒ませてもらいまする。」
 そう言って信長を見つめる瞳は、姫ではない。男の顔だった。その目に射抜かれ、さらに心を読んだような事を言った帰蝶に信長は驚きつつも、それ故に自分の気持ちを、この想いを悟った。

(わたしは、この人が……この殿方が好きなのだ。────女として、この人を愛してる。)
           ・・・・・
「ええ。わたしは貴方を夫としたい。……貴方は、どうなのですか?わたしを、受け入れてくれますか?「大うつけ」の俺を。男として生きている、わたしを。」

 そうして再び帰蝶に抱き着いた。今度は帰蝶も拒まなかった。自分はきっと、この方に一目で恋をしたのだ。──この、覇王の如き姫に。
「ええ。貴女が私を拒まぬのなら。貴女を愛していますゆえ。喜んで、貴女を受け入れましょう。貴女の、夫として。貴方様の、妻として。」

 それを聞き、安堵したのか信長は、今までにないほど柔らかく笑った。
「ならば、わたしも、貴方様の妻として。そなたの夫として。」

「信(しん)、それが私の名前です。どうか、今はそう呼んで。」

「それならば、私のことも真の名・蝶丸と
呼んで欲しい。」

「ええ。」

 そうして、二人は唇を重ね、手をとった。

 ────あなたと、夫婦となりましょう────


 翌朝。信長は部屋に僅かに刺した光で、目を覚ました。
(もう、朝……)
 起き上がり、少し衣服がずれたことで、違和感を覚えた。
(晒がない……────ああ、そうか、わたしは……)
 自分の横で眠る愛しい人を見つめる。やはり化粧をしなくとも美しく凛々しい。昨日よりも男らしく、頼もしく見えるのは、きっと。
  わたしは、この方の……

(俺は、この人の夫になったのだな……)

 「これからよろしくな、帰蝶。」

 その数分後、帰蝶も目を覚ました。物音がしたほうを見ると、すでに信長は着替えを終えていた。
 帰蝶の方へ振り向くとわずかながら微笑みを浮かべたが、完全に向き直ったときは、「織田家嫡男の男」の顔になっていた。
「お早う、濃。」

 その眼差しに射抜かれ、しばし固まった帰蝶だが、艶やかに笑い、言葉を返した。
「お早うございます、旦那様。」


2wa

信長と帰蝶、波乱の夫婦生活は始まったばかりであった。
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